朝日新聞の報道によると、能登半島地震の被災地で誤嚥性肺炎が増えているそうです。https://www.asahi.com/articles/ASS1M5CT6S1LUTFL004.html?iref=pc_ss_date_article
記事は、「能登総合病院(石川県七尾市)の歯科口腔外科には、震災後2週間に誤嚥性肺炎になり、歯科での対応が必要になった患者が19人いた。例年の約3倍にあたる」と報道しています。
誤嚥性肺炎は、誤嚥や嚥下障害のある人に発症する肺炎です。このように紹介すると、「私は食事中にむせないから大丈夫」と思われる方が多いでしょう。しかし、高齢者には、寝ている間に気づかずに唾液を飲み込んで気管に入ってしまう不顕性誤嚥という現象があって、食事中の食べ物とは関係なく、食事中以外に唾液を誤嚥します。唾液には1ml中に約1億個の細菌が含まれてますから、それが気管を通じて肺にはいってしまうと肺炎を発症するわけです。
実際、肺炎にかかった高齢者の70%が、睡眠中に唾液を誤嚥をしていることがわかっています。一度の不顕性誤嚥ですぐに肺炎になるわけではありませんが、繰り返し不顕性誤嚥しているうちに誤嚥性肺炎になります。
被災地ではなかなか水道が復旧せず水の確保が困難で、いつものように歯磨きできなくて誤嚥する唾液の内の細菌量が多かったり、細菌量はは震災前と同じでも避難所で風邪をひいたり、震災後の心労と体力を消耗で全身の免疫力が低下して、肺炎を発症しているのでしょう。阪神大震災の被災経験のある歯科医として、一日も早い復旧を願うばかりです。
被災してライフラインが遮断されて水の使用が制限される場合に、薬剤(抗菌剤)を用いたプラークコントロールが注目されており、海外では、デンタルリンスやマウスウォッシュと呼ばれる洗口剤を使用して口腔ケアすると肺炎の発症リスクが低下することが知られています。洗口剤には薬効成分配合のものと薬効成分無配合のものがあります。代表的な薬効成分には、グルコン酸クロルヘキシジン(CHG)、塩化セチルピリジウム(CPC)、塩化ベンゼトニウム(BTC)、ポビドンヨード(PI)、エッセンシャルオイル(EO)、トリクロサン(TC)がありますが、 このような薬効成分配合の洗口剤を使用すれば、口腔内細菌数が減少して、薬効成分未配合の洗口剤と比べて抗菌作用があることがわかっています。
被災中でなくても、肩や腕が痛むなど身体が不自由になってブラッシングが十分にできない高齢者では、薬効成分を含む洗口剤を日常の口腔清掃に加えれば、誤嚥性肺炎のリスクを下げる効果が期待できます。
薬効成分配合の洗口剤には、次のようなものがあります。
「歯科衛生士が知っておきたい洗口剤の応用」より引用
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