数えきれないほどの種類の歯磨き粉が市販されていますが、みなさんはどのように歯磨き粉を選んでますか? むし歯予防、歯周病対策、知覚過敏対策、口臭予防、美白などの効能で選んだり、味や香りで選んだり、パッケージで選んだり、価格で選んだり。歯磨き購入の決め手はさまざまでしょう。歯医者をしていると、歯磨き粉のお勧めを尋ねられることもあります。このブログではそんなときの答えを紹介します。
1.虫歯予防におすすめの歯磨き
虫歯対策のためならば、日本口腔衛生学会、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会が2023年に発表した「4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」を参考にして、年齢に応じた濃度のフッ化物配合歯磨剤を購入するように勧めています。下表が4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法です。ここで大事なことは、「うがいは少量の水(大匙一杯)で 1 回だけにする」ということ、せっかくのフッ素を無駄にしないために必ず守ってください。
年齢 | 使用量 | フッ化物濃度 | 使用方法 |
歯が生えてから 2 歳 | 米粒程度(1~2mm 程度) | 1000 ppmF(日本の製品を踏まえ900~1000ppmF) | 就寝前を含めて1 日 2 回の歯みがきを行う。 1000 ppmF の歯磨剤をごく少量使用する。 歯みがきの後にティッシュなどで歯磨剤を軽く拭き取ってもよい。 歯磨剤は子どもの手が届かない所に保管する。 歯みがきについて専門家のアドバイスを受ける。 |
3~5 歳 | グリ ー ンピース程度(5mm 程度) | 1000 ppm F(日本の製品を踏まえ900~1000ppmF) | 就寝前を含めて1 日 2 回の歯みがきを行う。 歯みがきの後は、 歯磨剤を軽くはき出す。 うがいをする場合は少量の水(大匙一杯)で 1 回のみとする。 子どもが歯プラシに適切な量をつけられない場合は 保護者が歯磨剤を出す。 |
6 歳~成人・高齢者 | 歯プラシ全体(1.5cm~2cm 程度) | 1500 ppm F(日本の製品を踏まえ1400~1500ppmF) | 就寝前を含めて 1 日2 回の歯みがきを行う。 歯みがきの後は、 歯磨剤を軽くはき出す。 うがいをする場合は少量の水(大匙一杯)で 1 回のみとする。 チタン製歯科材料が使用されていても、 歯がある湯合はフッ化物配合歯磨剤を使用する。 |
2.知覚過敏対策の歯磨き
知覚過敏症には、硝酸カリウムと乳酸アルミニウムとの二つの成分のいずれかまたは両方が含まれるものをお勧めします。このような歯磨きはプラセボ(偽薬)と比較して、知覚過敏の症状を軽減することがわかってます。ここでも大事なことは、有効成分を歯の表面に残すために、「うがいは少量の水(大匙一杯)で 1 回だけにする」です。
3.歯周病対策の歯磨き
歯周病学会が一般の方を対象に公表している「歯周病Q&A」では、「歯磨剤は何が良いでしょうか?」という質問に次のように答えています。「歯ぐきの腫れ(炎症)を抑える薬効成分などが入っているものもありますが、基本的には歯磨剤の成分はどれも同じ様なものです。歯磨剤それ自体が歯肉炎と歯周炎に対して明らかに治療効果があるという訳ではなく、あくまで補助的な効果と考えて下さい。一番大事なのは、どの歯磨剤を使うかではなく、炎症の原因となっているプラークを取り除くように、丁寧なブラッシングで磨き残しを少なくすることです。」 「どんな歯磨剤を使うかより磨き方が大事ですよ!」と教えてくれてます。でも、むし歯予防でも知覚過敏対策でも磨き方が大事なのは同じことで、でたらめな磨き方ではせっかく購入した歯磨き粉は無駄になります。学会は「歯肉炎と歯周炎に対してあくまで補助的な効果」のある薬効成分などが入っている歯磨き粉があることを認めています。そこで、どんな成分がどんなふうに効くのか調べてみました。
歯周病対策の歯磨きには、薬効成分として①殺菌剤、②消炎剤、③血行促進剤、④止血剤、⑤細胞賦活剤(歯肉の回復を促進する作用)、⑥収斂剤(歯肉を引き締める作用)などが含まれています。
殺菌剤で唾液中や歯周ポケット内歯肉や口腔粘膜表面に付着している細菌に作用させる目的で配合しているものとして、
CPC(塩化セチルピリジニウム) BTC(塩化ベンゼトニウム)
BKC(塩化ベンザルコニウム)
クロルヘキシジン(CHX)
LSS(ラウロイルサルコシンナトリウム)など
また、歯垢の中の細菌に作用させるものとして、
イソプロピルメチルフェノール(IPMP)
さらに、歯肉の腫れ・赤みの緩和を期待するものとして、
β-グリチルレチン酸
ε-アミノカプロン酸
トラネキサム酸 (TXA)
アスコルビン酸(ビタミンC)など
歯肉の血行を促進する作用として、
酢酸トコフェロール (ビタミンE)
歯肉の細胞の新陳代謝を活発にして、細胞の老化を防止する作用(賦活作用)として
塩酸ピリドキシン(ビタミン B )
歯肉の退縮を防ぐ作用(収斂作用)として
塩化ナトリウムなど
があります。
先に書いたように、むし歯予防ならばフッ素配合、知覚過敏対策ならば硝酸カリウムや乳酸アルミニウム配合と有効な成分が一つ二つに限定されますから、店頭では、成分を確認して、フッ素は年齢に応じた濃度であることも確認して購入すればよいです。ところが、歯周病対策の有効成分は多様で、ドラッグストア等で販売している歯周病対策の歯磨きは、これらの有効成分の中からいくつかを選んで配合しているので、どれを選ぶか迷うところです。
そこで、私のお勧めは、第一三共ヘルスケアの「クリーンデンタル プレミアム」です。この製品の特徴は、歯周病に有効な薬用成分を10種類含んでいること。さらに、CPC(塩化セチルピリジニウム)が歯磨きの清掃材(歯の表面を傷つけずに、歯垢や着色物などの汚れを落とす成分)に取り込まれていて、これが磨き残した歯垢に接着して、長時間の殺菌作用を発揮することです。口腔内の環境を再現した実験では1分間に約500mLの水で洗浄しても24時間後のCPCの効果が持続することが確認されてます。メーカーはこの効果を「アンチプラークシステム」と呼んでいますが、この歯磨きが含んでいるCPC以外の有効成分、特に歯周病で歯肉が退縮して露出した歯根のむし歯予防に有効なフッ素が効果を発揮するには、ゆすぎは「うがいは少量の水(大匙一杯)で 1 回だけにする」ことが大事だと思います。
なお、クリーンデンタルには、私が推奨するプレミアム以外に5種類が発売されています。自分が気になる症状ごとに使い分けてもらったらよいと思います。
プレミアム | アンチプラークシステム®で殺菌成分の効果持続。知覚過敏に対応。 |
トータルケア | 殺菌成分含むが、アンチプラークシステム®なし。知覚過敏に非対応。 |
無研磨 | 殺菌成分含むが、アンチプラークシステム®なし。知覚過敏に非対応。ゲルタイプで電動ブラシで使いやすい |
口臭ケア | 殺菌成分含むが、アンチプラークシステム®なし。知覚過敏に非対応。口臭成分を吸着するβ-シクロデキストリンを配合 |
知覚過敏ケア | 殺菌成分含むが、アンチプラークシステム®なし。知覚過敏に対応。 |
美白ケア | 殺菌成分含むが、アンチプラークシステム®なし。ステインを浮かせて落とし歯を白くするポリビニルピロリドンを含む |
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