齢を重ねるにつれて全身の様々な機能は若いころと同じでなくなります。飲みこむ機能が、年齢とともに低下するのも自然なことです。安全に飲み込むためには、口と喉の様々な筋肉が、神経で精密にコントロールされて、素早く協調して動くことが必要です。しかし、歳を取ると筋力が弱まって神経が鈍るので、食べ物や薬が飲みこみにくくなったり、喉に食べ物が残る感じがしたり、喉がゴロゴロする感じたり、むせるようになります。「歳だから仕方がない」と言ってしまえばそれまでですが、できることならば、衰えをできるだけ抑えて、いつまでも口から十分な栄養を摂取したいものです。
飲みこみのメカニズム
ものを飲みこむには、まず、起き上がったり座った姿勢を取り、次に口をあけて、 お箸やスプーンなどを使って食べ物を口に入れることから始まります。さらに食べたものを歯や義歯でよく噛んで、舌で圧し潰して、飲みこめるようにまとめてから、ゴクンと飲みこみ(嚥下)ます。
通常の飲みこみ(嚥下)の仕組みは次のとおりです。
食べ物が口の中にない時、喉頭蓋(こうとうがい)という軟骨でできている気管の蓋が開いていて、呼吸をしています(図1)。
食べ物などが喉を通過する瞬間は、喉仏(のどぼとけ)が前上方に上がって、喉頭蓋が蓋になって気管の入り口を閉じて、気道に食べ物が入らないようにします。同時に、食道の入り口を広げて、食べ物を通過しやすくしています(図2)。こうして、食道に流れるべき食べものや唾液などが、誤って気管に入り込む誤嚥を防いでいます。これらの動きは、自分の意思とは関係なく、わずか0.5~0.8秒という短い時間で反射的に行われます。
ところが、飲み込む力が弱くなると、食べ物や唾液が食道を通って胃に入らずに、喉に残って声帯の上に流入します。この状態を喉頭流入(図3)といいます。こんな場合に、食事中や食後に話をすると湿性嗄声(しっせいさせい)といって、痰が絡んだようなゴロゴロとした声、かすれ声になることもあります。
パサパサしたものや噛み切りにくいものほど飲み込むことがむずかしかったり、また汁気の多いものはむせやすいことがあります。食べ物や唾液が気管内にまで侵入すると誤嚥(図4)といいます。これらの症状は、嚥下障害の兆しであります。 誤嚥して肺の中に入っても、咳で出せれば問題ないのですが、嚥下障害が進行して、咳ができないと肺にの残って炎症を 起こすので肺炎の原因になります。この肺炎が誤嚥性肺炎です。
嚥下障害の兆しの原因
喉頭流入や誤嚥、そのほかに今まで何気なく飲食していた食品や、常用している薬が飲み込みづらくなっていませんか? このよう嚥下障害の兆しには、以下のような加齢による体の変化が原因として考えられます。
噛む力の低下
飲み込みやすい大きさまで噛み砕けない
唾液の減少
飲み込みやすいようにまとめられない
神経の衰え
気管の蓋が間に合わない
嚥下筋の筋力の減少
喉仏をタイミングを合わせて引っ張り上げて、ゴックンができない
嚥下障害の兆しに気づいたら、次のようなポイントを意識して、喉頭流入や誤嚥のリスクを下げて、進行を遅らせるようにしましょう。
喉にたべものを残さないようにするためには、一口量は少なめにすることと、顎を引くように頚椎から曲げておじぎするように飲む頸部前屈嚥下が有効です。
喉ぼとけ(喉頭)を上げる嚥下筋を鍛えるには、嚥下おでこ体操が有効です。
おでこと手で押し合う。へそをのぞき込むようにあごを引き、おでこに手根部を当てて、手とおでこで5秒間押し合う。その時、のど仏にグッと力が入って上がっていればOK。5~10回。
飲みこみは全身の呼吸力、体力と関係が深いですから、発声訓練 、歌唱 、カラオケ、 全身運動としてウオーキングやスポーツも有効です。
食べる前に準備運動を行うと効果があります。顔や首の筋肉の緊張を解いたり、鍛えたりするのが目的です。
体操で"誤嚥予防"-3分でできる嚥下体操講座 世の中の役に立つ近大公開講座 vol.1より
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