top of page
執筆者の写真仲田歯科医院

親の唾液が子供のアトピーや鼻炎予防に役立ちます   子供に唾液をうつさないように頑張るのは止めましょう

更新日:3月18日

 昔から「長生きする人は唾液が多い」とか「よだれの多い赤ちゃんは健康に育つ」と言われるくらい、唾液と健康との間に深いつながりがあることが知られてました。昭和、私が子供だったころ、転んで擦りむいた傷は「ツバをつけとけば治る!治る!」なんて「おまじない」のように言われたものでした。実際、唾液には抗菌成分や消化酵素、皮膚や体内の臓器のの表面(上皮)や神経の成長因子などが含まれていることがわかってるので、この「おまじない」に医学的根拠が全然ないわけではなさそうですが・・・。


 こんな眉唾な話ではなく、ここ10年ほどの間に唾液の新しい作用が明らかになってます。その一つは、2013年にスウェーデンのサールグレンスカ大学病院の医師らが、「おしゃぶりを親の口に含んでからくわえさせられた子供では、2歳6カ月の時点でぜんそくになるリスクが9割、アトピー性皮膚炎になるリスクが6割それぞれ減少していた」と発表したことです。さらに、2023年には和歌山県立医大、兵庫医科大学、獨協医科大学、高槻赤十字病院の共同研究で「乳児期に親と食器を共有して親の唾液と接触したら、学齢期になったときのアトピー性皮膚炎発症リスクを48%抑えて、乳児期におしゃぶりから親の唾液と接触したら、学齢期のアトピー性皮膚炎の発症を65%、アレルギー性鼻炎の発症は67%低下させる。」と発表しました。つまり、親の唾液によって子供のアレルギーが予防できるというわけです。


 さて、先進国では子供の3人に1人がアレルギー疾患にかかっているとされてます。この原因の一つに、腸内細菌の異常(dysbiosis:腸内細菌を構成する細菌の種類や数の異常)が関わっていて、これには清潔すぎる子育てが関係すると言われてます。でも、「腸内細菌がアレルギーと関わっているの?」「清潔すぎる子育てのどこが良くないの?」とそのつながりを疑問に思う方は多いことでしょう。そもそも、アレルギーは、本来、無害であるはずの異物に対して不要な免疫反応が起こってしまうことです。免疫にはさまざまな細胞が関わってますが、このなかの免疫抑制細胞(制御性T細胞)は、アレルギー疾患を引き起こす余計な免疫反応が起こらないように調整しています。この免疫抑制細胞が活発に働くには、酪酸が必要で、それを産生する酪酸酸性菌という種類の細菌が腸に定着していることが必須です。酪酸酸性菌は土砂や枯れ草、家畜糞尿などに付着して自然環境中に広く分布してますが、生命力が強くて、ヒトを含めた動物の腸や口の中にも存在して、生きて腸まで届きやすい菌といわれています。

子供は小さい頃に動物に触れたり、土あそびをしたり、物をなめたりすることで色んな細菌を腸内に取り込んでいます。これが子供の免疫システムの完成に不可欠です。

 お母さんのおなかにいる赤ちゃんの身体に腸内細菌はいません。生まれてくる時に初めて、お母さんの産道を通るときに腸内細菌が体内に入ります。ほかにも、小さい頃に動物に触れたり、土あそびをしたり、物をなめたりすることで色んな細菌を腸内に取り込んでいると考えられてます。サールグレンスカ大学病院の医師は「貧困、大家族、幼いうちにペットや家畜と接触すること、食べ物を通じて細菌にさらされることなどが、アレルギー疾患リスクを下げることと関連している」と説明しています。さらに「乳幼児期に腸内細菌の獲得が遅れることなどが、アレルギー疾患の危険因子とも指摘されている」と述べています。今回の結果については、「おしゃぶりを通じて親の腸内細菌が子供に移されることで、アレルギー疾患を抑えられた可能性がある」と述べています。 人の免疫システムは、乳幼児期に多くの種類の菌を入れることで完成します。親の唾液は子供の未完成の免疫システムにとって良い刺激になるようです。


 一方で、「親の唾液を介して虫歯菌がうつるから、スプーンやお箸などは子どもと共有しないほうがいい」という考え方が広まっています。実は、海外でも親から子へむし歯菌のミュータンス菌が感染することは知られていますが、だからといって、子どものむし歯予防のために食器を分けることを頑張る親はいません。実は、厚労省や歯科予防関係の学会でも「親子で食器の共有を避けていれば、子どもの虫歯は防げる」と推奨しておらず、根拠のない情報がまことしやかに広まっているだけのまさに「噂」にすぎません。

 

 乳児期に親の唾液と接触することが学齢期のアトピーとアレルギー性鼻炎の発症リスク低下の可能性が明らかになったわけですから、「食べ物の口移しや噛み与えをしない」、「離乳食の味・温度のチェックを赤ちゃん用のスプーンで行わない」、「お箸やスプーンの共有はしない」といった対策に神経質にならうことは止めましょう。家族から子どもにむし歯菌が移ったとしても、砂糖の摂取を控え、親が毎日仕上げみがきを行って歯垢を除去し、またフッ化物を利用することでう蝕を予防することができます。特に、フッ化物の利用は多くの論文でう蝕予防効果が確認されている方法です。フッ化物配合歯磨剤の利用方法は 当院のブログ「むし歯予防に本当に効果的な歯みがき法&PMTC」https://www.nakata-sika.com/post/effective-use-of-fluoride-toothpaste-and-pmtc-to-prevent-tooth-decay

をご一読ください。


Comments


bottom of page