終息の兆しが見えないコロナ禍ですが、歯科疾患が新型コロナウイルス感染症に直接的な影響を及ぼすという確証は、現在のところ見つかっていません。
それでも、お口の衛生状態がコロナの発症や重症化に大きく関わっている可能性は高いようです。
というのも、歯周病原菌をはじめ口腔内に住みついてている様々な細菌は、新型コロナウイルスの感染と増殖に関与している可能性が高いからです。
また、新型コロナウイルス感染症の重症化について、よく耳にする「サイトカインストーム」という言葉があります。歯周病菌が持っている「LPS」という名の毒が、この「サイトカインストーム」に関わっていることがわかっています。
そこで、このブログでは、新型コロナ感染症と口腔の衛生状態の関係について、できるだけわかりやすくお伝えしようと思います。なお、ここでは、新型コロナウイルスを「コロナウイルス」、新型コロナウイルス感染症を「コロナ」と略します。
目次
1.まず、コロナウイルスとその感染症について
1-1. コロナウイルスって何?
1-2. コロナウイルスはどのように感染するのか?
1-2-1. おもな感染ルートは飛沫感染
1-2-2. コロナウイルスが感染する仕組み
1-2-3. 感染したコロナウイルスの増殖
1-2-4. コロナウイルスと免疫細胞の攻防
1-2-4-1. 免疫細胞をコントロールするサイトカイン
1-2-4-2. サイトカインの分泌過剰でおこるサイトカインストーム
1-2-4-3. サイトカインストームの破壊活動
1-2-4-4. サイトカインストームの終結
1-2-5 コロナウイルスの感染に引き続いておこる細菌感染症
2. コロナウイルスと口腔ケアの関わり
2-1. 口腔とコロナウイルス
2-1-1. 口腔に存在するコロナウイルのスレセプター
2-1-2. 歯垢の細菌はコロナウイルスのサポーター
2-1-1-1. ウイルスの感染を助ける口腔細菌
2-1-1-2. ウイルスの増殖を助ける口腔細菌
2.2. 歯周病とコロナの重症化
2-2-1. コロナの死亡者から大量の歯周病原菌
2-2-2. 歯周病とサイトカイン ストーム
2-3. インフルエンザ予防と口腔ケア
2-3-1.インフルエンザウイルスの感染と増殖に助ける口腔細菌
2-3-2.口腔ケアでインフルエンザの発症率が1/10に減少
2-4. コロナ予防と口腔ケア
1.まず、コロナウイルスとその感染症について
今年は、コロナの情報があらゆるメディアにあふれました。そんな中で、Youtubeに公開されている「コロナウイルスとは何か&あなたは何をすべきか」というムービーは、このブログ執筆時に世界中で2800万回以上再生されるほど注目を集めています。アニメーションを使って科学的にとてもわかりやすく解説していて、日本語字幕もついてますから、ぜひ、ご覧ください。
ここでは、このムービを引用して、仲田歯科医院が解説文を追加して、コロナの発症から重症化の経緯について説明します。
1-1. コロナウイルスって何?
コロナウイルスは遺伝子(RNA)とたんぱく質を持つ殻(Lipid Envelope)に過ぎません。どんなウイルスも、自分を複製するための設計図(遺伝子)は持っていまが、それを基に組み立てるための設備を持っていません。
そこで、設備を持っている細胞の中にもぐり込んで、つまり、感染して、こっそり自分の設計図を混ぜて複製させます。 このように、ウイルスは自分だけで増えることができないので、生き物ではないとする考え方もあります。
1-2. コロナウイルスはどのように感染するのか?
1-2-1. おもな感染ルートは飛沫感染
コロナウイルスの 主な拡散源は感染者の咳から飛散した飛沫であることは明らかです。咳やくしゃみをしなくても感染を拡大させるリスクがあって、WHOは5分間の会話で1回の咳と同じくらいの飛沫が飛ぶと報告しています。ウイルスの主なターゲットは腸、脾臓または肺です。肺に到達すると最も重大な影響をもたらします。
1-2-2. コロナウイルスが感染する仕組み
粘膜や臓器の表面には何十億もの上皮細胞が並んでいます。この上皮細胞に新型コロナウイルスに感染します。
上皮細胞は臓器と粘膜を覆って身体の内側と外側の境界を守っています。コロナウイルスは侵入する上皮細胞の膜にあるACE2と名づけられた受容体に接続します。そして、遺伝子を細胞の中に注入して感染します。普通のかぜのウイルスは、多くの場合、呼吸器にしか感染しません。ところが、コロナウイルスが狙う「ACE2」は、全身に存在するため、腎臓や心臓、血管など、さまざまな場所に感染することができます。その結果、普通のかぜと違って、100以上もの全身症状を引き起こすと考えられてます。
1-2-3. 感染したコロナウイルスの増殖
コロナウイルスに感染して遺伝子を注入された細胞は、気がつかないうちに、コロナウイルスを複製させられます。
細胞はどんどんとコロナウイルスを複製させられて、コロナウイルスは子孫を増やします。感染した細胞の中でウイルスの子孫で満杯になると細胞から抜けだして、別の細胞を攻撃しはじめます。そして、10日後には肺はウイルスで一杯になりますが、この時点では、ウイルスは大した被害を引き起こしていません。
1-2-4. コロナウイルスと免疫細胞の攻防
でも、この次に厄介なことがおこります。自分の免疫の暴走です。本来、私たちの体を守る免疫ですが、コントロールできなくなると自分自身の組織を傷つけて、最悪の場合、死に至ります。まさに、免疫は諸刃の刃です。こうならないように、免疫は常に正確にコントロールする必要があります。
1-2-4-1. 免疫細胞をコントロールするサイトカイン
免疫細胞の中には免疫システムを始動する役割の細胞がいます。肺で、この始動役の細胞がコロナウイルスを捕らえると、リンパ節に移動して、様々な免疫細胞とコミュニケーションをとって、次のように指令します。例えば、「ウイルスを捕らえよ」、「ウイルスに感染した細胞を殺せ」、「抗体を作れ」などと指令します。
細胞には口も耳も目もありませんから、細胞同志のコミュニケーションはサイトカインという蛋白質を介して行われます。始動役の免疫細胞は、サイトカインを分泌して指令します。中には「おとなしくしてなさい」とか「死んで下さい」というメッセージを伝えるものもあります。
肺の細胞にウイルスが感染すると、サイトカインが分泌されて、肺炎が起こったとアラームを発令し、免疫細胞に体を守るように指令します。通常は、サイトカインの情報伝達によって免疫細胞が感染箇所に動員されます。そして、脅威が小さくなり始めると、サイトカインによるアラームは止まり、免疫細胞は撤退します。
1-2-4-2. サイトカインの分泌過剰でおこるサイトカインストーム
しかし、時に、サイトカインの分泌は止まらずに、アラームが鳴り続けて、必要以上に免疫細胞を集め続けて収拾のつかない混乱状態になることがあります。
この状況がサイトカーンストームです。サイトカインストームが起きると、発熱や倦怠感をともなって全身状態の悪化に繋がります。また、血液を固める凝固系にも異常を起す場合があります。そして、サイトカインストームが、ウイルスそのものよりも感染した細胞だけでなく、健康な組織までも破壊して、体にダメージを与えてしまうことがあります。
1-2-4-3. サイトカインストームの破壊活動
免疫細胞のうちで特に二種類の大きな危害を及ぼします。好中球とキラーT細胞です。好中球は殺傷能力に優れて、私たちの体細胞も殺してしまうことがあります。数千単位でやってくる好中球の放出する酵素が、健康な細胞を破壊してします。
キラーT細胞は、普段は感染した細胞に自殺を命じますが、混乱すると健康な細胞にも自殺を命じます。
免疫細胞が集まるほどにダメージが大きくなり、健康な肺組織が傷つけられていきます。肺胞は傷ついて固くなって膨らみにくくなり、空気が入りづらくなります。加えて肺に届いた空気中の酸素も取り込まれづらくなり、血中の酸素が不足し、呼吸不全の状態になってしまいます。
1-2-4-4. サイトカインストームの終結
ほとんどの場合免疫はゆっくりと制御を取り戻します。感染した細胞を殺し、新たに感染しようとするウイルスを妨害し、死骸を掃除します。
回復が始まります。新型コロナウイルスに感染した人のほとんどは、比較的軽度の症状で乗り越えます。
深刻で重篤な状態になることもあります。肺でたくさんの上皮細胞が死に、肺を保護する組織がなくなります。
こうなると通常は無害な細菌も肺に感染して、肺炎になり、重症化すれば人工呼吸器が必要になります。
1-2-4 コロナウイルスの感染に引き続いておこる細菌感染症
コロナウイルスの感染に引き続いておこる2次性細菌感染症は、欧州では入院患者の 15%がかかるとされていますが、国内では、厚労省が「新型コロナ感染症 診療の手引き 第4版」で今後の調査が必要としています。
「コロナウイルスとは何か&あなたは何をすべきか」のムービーでは、この細菌感染症による重症化の過程を次のように説明しています。
はじめのうちは、免疫システムが正常に働いて、肺のコロナウイルスは減少していきます。そして、未だ、細菌性肺炎は起こっていません。
免疫システムは、コロナウイルスを退治し感染症を治そうとしますが、ときには、免疫システムがコントロールできなくなり、自分自身の体の臓器(心臓、肺、腎臓など)が障害を受けることがあります。
これが敗血症です。肺のコロナウイルスはすっかり減りましたが、呼吸器の粘膜や全身の抵抗力が低下しているため、細菌に感染しやすくなり、細菌性肺炎が続発して、肺の細菌は増加していきます。
肺の細菌はますます増殖して、血液経由で体中に広がって、免疫システムでは手が負えなくなります。感染者の命が危うくなります。
2. 新型コロナウイルスと歯科疾患の関わり
2-1. 口腔が不潔になるとウイルス感染を助長します
2-1-1. 口腔に存在するコロナウイルスのレセプター
新型コロナウイルス感染症 の初期症状として、味覚異常があることが広く知られています。似た症状はSARS やインフルエンザでもみられるます。
身体のさまざまな部分でコロナウイルスのレセプター(受容体)の存在を調べた結果、肺や腸管以外では、口腔に多く存在していることが分かっています。レセプター は、口蓋や口腔底の粘膜や歯肉、唾液線にもありますが、舌の粘膜により多く存在します。新型コロナウイルスが舌へ感染することにより味蕾細胞の機能が障害された結果,味覚障害が生じている可能性があります。
2-1-2. 歯垢の細菌はコロナウイルスのサポーター
2-1-1-1. ウイルスの感染を助ける口腔細菌
口腔内に常在(定住)している700種類を越える細菌が生息していて、この中にはさまざまな酵素を作りだす細菌がいます。歯垢の細菌のなかで多数をしめるミティス菌とオラーリス菌は、ノイラミニダーゼという酵素を活発に作って、ウイルスが粘膜の細胞に感染するのを助けています。
歯肉、舌など口腔内の粘膜はノイラミン酸という糖で覆われて保護されてます。
ノイラミニダーゼはこのノイラミン酸のバリアを破壊します。また、細菌が産生するプロテアーゼという酵素は、同じように粘膜のタンパク質からなっている成分をこわします。
このために、粘膜の上皮細胞にかくれているウ イルスのレセプターが露出して、ウイルスが感染しやすくなります。
2-1-1-2. ウイルスの増殖を助ける口腔細菌
歯垢の細菌が産生する酵素ノイラミニダーゼはウイルスの増殖も助けています。
コロナウイルスが感染した細胞の中で子孫を増やします。
増殖したウイルスの子孫で細胞が満杯になると、細胞から抜け出さねばなりません。細胞から出るために細胞膜を破る時に、ノイラミニダーゼが必要です。
そこで、 口腔清掃を徹底して細菌が産生する酵素を減らすことは、コロナウイルスの感染予防に繋がると考えられます。
2.2. 歯周病とコロナの重症化
2-2-1.コロナの死亡者から大量の歯周病原菌
世界的に有名な医学雑誌「ランセット」オンラインに、「COVID-19での口腔内細菌の役割」というタイトルのレポートが公開されてます。
このレポートでは、コロナで死亡した人を調べて、その体内から歯周病菌が大量に見つかったことを報告しました。
口腔衛生状態が悪くて歯周病がある人が、コロナウイルスに感染すると、重症化リスクが高まる可能性を指摘してます。
2-2-2. 歯周病とサイトカイン ストーム
新型コロナウイルス の肺炎は、サイトカインストームで重症化します。
このサイトカインストームの発症には、歯周病菌のもつ毒素であるLPSが重要な役割を果たしています。
歯周病原菌は、酸素のないところで生息する嫌気性菌で、口腔では歯周ポケットの奥底か感染します。この嫌気性菌はLPS(リポ多糖体)と呼ばれる毒素を産生します。
LPSは身体の様々な細胞に刺激を与えて、そこから炎症性サイトカインという物質が分泌させます。そして、炎症性サイトカインに誘発された破骨細胞が歯槽骨を破壊して、歯周病が進行していきます。
歯周病の活動性が高くて進行するリスクの高い人では、身体がLPSに過剰に反応して多くの炎症性サイトカインを産生するので、歯周病が重症化します。そして、このような場合は、新型コロナウイルスに感染したときに重症化リスクが高いことに注意が必要です。
2-3. インフルエンザ予防と口腔ケア
口腔ケアがインフルエンザ予防に重要なことは既に立証されてます。
2-3-1.インフルエンザウイルスの感染と増殖を助ける口腔細菌
インフルエンザウイルスの感染と増殖には、ノイラミニダーゼが重要な役割を担っています。ノイラミニダーゼは気道粘膜表面のレセプターを露出させてて、インフルエンザウイルス感染を起こすします。さらに、細胞内で増殖したウイルスを拡散させます。
このウイルス拡散を防ぐ作用のあるノイラミニダーゼ阻害薬は、「タミフル」「リレンザ」としてインフルエンザ治療薬として使われてます。
ノイラミニダーゼ は多くの口腔内細菌が産生することが分かってます。
つまり、インフルエンザウイルスの感染と増殖に重要な働きを持つ酵素を口腔内細菌が産生しています。
2-3-2.口腔ケアでインフルエンザの発症率が1/10に減少
インフルエンザウイルスの感染と増殖に重要な働きを持つ酵素を口腔内細菌が産生していることを踏まえて、2 0 0 3 年9月から 2 0 0 4 年3月までの冬季6ヶ月間に、口腔ケアがインフルエンザ予防に有効かを確認する研究調査が行われました。
対象者は 6 5 歳以上の在宅療養高齢者 1 9 0 名で、口腔ケア介入群 9 8 名(平均年齢 8 1 . 0 ± 8 . 0 )と口腔ケア非介入群 9 2 名(平均年齢 8 3 . 5 ± 6 )に分けました。この2郡にインフルエンザ予防ワクチン接種率に差はありませんでした。
口腔ケア介入群には、歯科衛生士による口腔清掃を中心とした口腔ケアと集団口腔衛生指導を一週間に一回実施しました。
口腔ケア非介入群 は本人および介護者による従来の口腔ケアを続けました。
すると、口腔ケア介入群のインフルエンザ発症率が 1 / 1 0 に減少することを確認できました。
この調査結果は、口腔清掃を中心とした口腔ケアによって菌数が減って、細菌の産生する酵素が減って、インフルエンザウイルス感染を起こしにくい口腔内環境が作れたと考えられてます。
高齢者のインフルエンザ予防で、従来のワクチンに加えて口腔ケアを行うことで、予防効果を上積みできると考えられてます。
2-4.コロナ予防と口腔ケア
インフルエンザと同じように、口腔ケアが 新型コロナウイルスの感染のリスク下げることができるか?、現状ではまだ検証されてません。世界中どこでもコロナ禍の最中で、目先の感染対策で手一杯で、科学的調査を実施する余地はないでしょうから、仕方のないことです。
しかし、口腔にはコロナウイルスの感染に必要なレセプターと酵素が混在しています。これは、インフルエンザの予防促進のシチュエーションと似ています。さらに、従来からの知見で、歯周病がコロナ重症化に関わっている可能性は極めて高いです。
そこで、コロナでも、口腔ケアが予防につながると考えています。「マスク・換気・手洗い・密を避ける」等にならんで、「口腔ケア」もコロナ対策の一つに加えましょう。
仲田歯科医院では徹底したコロナ感染予防対策のもとに診療しています。また、日本では歯科治療でのコロナウイルス感染自体が報告されてません。
コロナ禍のなか外出を自粛する動きがありますが、歯科治療を継続したり、歯周病のメインテナンスやむし歯予防のクリーニングで「口腔ケア」を受けることはコロナの予防につながります。どうぞ安心して受診して下さい。
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