奥歯を健康保険で被せるのは銀歯がポピュラーです。銀歯は金銀パラジウム合金を高温で溶かして鋳型に流し込んで製作してきました。これに代わって登場したのが、被せ物を高強度プラスチックの塊からコンピューター制御のCAD/CAMシステムを使って削りだして製作する技術です。2014年4月から健康保険で小臼歯に導入され始めて、2023年12月には大臼歯を含むすべての奥歯で高強度プラスチックを使用できるようになりました。これによって、奥歯でも銀色でなく、金属アレルギーのある方にとっても安心な材質で被せられるようになっています。
現在、歯科で用いる高強度プラスチックには2種類あります。それは、プラスチックとセラミックを混ぜ合わせたハイブリッドレジンとポリエーテルエーテルケトン(Poly Ether Ether Ketone:PEEK)です。いずれもCAD/CAMシステムで被せ物を製作するのですが、先発のハイブリッドレジンから製作するものを「CAD/CAM冠」と呼び、後発のポリエーテルエーテルケトンから製作するものを「PEEK冠」と呼びます。
CAD/CAM冠は、当初、犬歯の奥の(中央から4本目と5本目)小臼歯だけが保険適応でしたが、今は、小臼歯以外に前歯や6本目の奥歯(第一大臼歯)にもCADCAM冠が製作できます。ただし6本目の奥歯は、上下左右の7本目の奥歯(第二大臼歯)が 4本ともに抜かずに残ってることが条件です。また、CADCAM冠は強い歯ぎしりがある場合や、噛み合わせが安定しない場合にも製作できません。この他にも細かい条件がありますが、専門的になりすぎるのでここでの説明は控えます。くわしくは歯科医師に尋ねてください。
PEEK冠はCAD/CAM冠と比べるとねばり強く壊れにくいので、金属冠と同程度に薄く成型しても割れにくいです。そこで、従来は金属でかぶせていた奥歯を全てPEEK冠でかぶせることができます。PEEK冠の欠点は、色がアイボリーの単色で透過性がないので、CAD/CAM冠に比べると見た目が自然でありません。また、金属冠のように連結することができないので、ブリッジは製作できません。
保険診療では被せ物の材料に金銀パラジウム合金が永年使われてきましたが、昨今の貴金属の価格高騰が金銀パラジウム合金にも及んで、金属に代わる修復材料が求められていました。
また、近年、金属アレルギー患者が増加しており、奥歯であってもより自然な見た目を求めるニーズが高まっています。このような流れの中で、保険診療の修復は銀歯からCAD/CAM冠とPEEK冠に移り変わろうとしています。
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